障子にあの人の影が映っていた。


長い髪を、風がかする音さえ聞こえてきそうだった。


最後の抵抗


そろそろ休もうと、私は部屋の灯りを消した。

そして布団に横になり、ふと扉の方を見ると人の影があった。

誰かと考えるほどでもなかった。

こんな夜中に私を訪ねる人なんて一人に絞られてしまう。


「浮竹隊長、どうなさいましたか。」

私は上半身を起こしてその影に訪ねた。

影は少しも動くことはなかった。

「また風邪をひかれます。」

「・・・今夜は調子がいいんだ。」

多少かすれた低い声だった。

彼の髪が、微風で流れている様子が障子に映る。

「それに月がきれいだ。」

「月なら隊首室のほうがよく見えます。」

拒んだように聞こえたか。

いや、彼なら私の感情ごと汲み取ってしまうだろう。

わかってしまう人なのだ、なんでも。

「そうか。」

隊長はそう一言呟いただけだった。

やはり流されてしまった。

最後の私の抵抗も、軽く流された。

「寝ないのならこっちへ来い、朽木。」

仕方が無い、私も私で彼が好きだ。

年の差も、この上下関係も抵抗の理由にはならない。


私は立ち上がって扉を開けた。

その、線の細い美しい髪が気流に反応して揺れる。

私は隊長の隣に座った。

距離は彼の髪が私の頬に触れるほど、近かった。


隊長は空を見上げながら、膝に置かれた私の手首を握った。

「・・・朽木が一人で泣くなら、俺はそれをさせないさ。」

私は何も答えなかった。

何か言ったほうが良かったのかもしれない。

でも今、何かを言ったらきっと目の前の美しい月が霞んでしまう。

そして目の前の美しい人もまた、霞んでしまうのだ。


「叶わぬ恋だとよく言われる。」

私の手首が軋むほどに隊長の力が強くなった。

目が合ったせいで背骨が張る。

いつもと違って、一層真剣な眼で見られた。

「逆境であるし、障害物も多い。」


恋をしているのか。

兄様にそう聞かれたことがある。

私の何が兄様にそう見せたのか、それはわからない。

自覚もできなかった。

恋を、恋をしているのかまさか。


「でも俺が愛しているんだ。」

何をです、そんなこと聞けない。

もうすでにわかっている。

抵抗をするしないの問題ではない。

抵抗なんてできないところまで追いやられている。

もう飛び降りるしかないのだ、彼に向かって。


「浮竹隊長、私は恋をしているのですか。」

しゃべったせいで目尻から涙がこぼれてしまう。

隊長の目の前で一番見せたくないものをさらけ出してしまう。

それでも彼は何も言わず、きっと私の話を聞いているんだろう。

「・・・誰に、とういのは愚問か。」

わかってらっしゃる。

優しい上に、わかってらっしゃる。

そこが兄様と違い、海燕殿と違うのだ。

私が求めているのだ、欲しているのだ。

「ええ、愚問です。」


隊長が私の手首を離さない。

私の涙も途切れない。

いつ、誰が来るかもわからないのに、私達は幸せだった。

恋をしていたのだ。


あろうことか、私達は恋をしていたのだ。


Fin

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自分でもよくよみとれません、なんですかこれ。
ただ浮ルキが書きたい!の一心でした。


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