テニスがかったるいとか言わないのは、彼女がそれを望まないからだ。


彼女が、テニスをしている俺のことが好きだからだ。


テニスと俺


夏休みに入った。

もちろん夏休み初日から部活がある。

大会が近いし、まあ他のどの運動部でもそうだ。


その部活がめんどうだと、昨日竜崎にこぼしたら、珍しく怒られた。

彼女は涙ぐんだ目で迫力もなく、俺を睨んだ。

それでも俺は怯んでしまった。

彼女の凄んだ顔を見たことがなかったからだ。


それから竜崎は唇を強く噛んで、走っていった。

俺はその細い手首を掴んだけど、それはするりと抜けてしまった。


今日は暑い。

リビングのテレビがそう伝えてた。

そんなのわかってるよ、部屋に差し込む光がもうすでに熱い。

俺はもう朝食を食べる気がしなくなって、そのまま家を出て行った。

菜々子さんの声が扉の向こうで聞こえる。

俺は今、すごく機嫌が悪い。


テニスコートの地面が熱を持って、熱気が上ってくる。

立ってるだけで汗が滴り落ちる。

竜崎なんて、立ってるだけで倒れるんじゃないか。

そんな気がする。

今も竜崎はその長い髪を揺らし、へっぴり腰で球を追ってるんだろうか。

ついつい、女テニのコートのほうに目をやってしまう。

少しかっこ悪いと思いつつ。


案の定、竜崎はへばっていた。


昼の休憩時間に顔を洗うという口実で、女テニのほうへ行ってみた。

竜崎は木陰で縮こまって座っていた。

顔は伏せられていたから表情はよくわからなかった。

「竜崎。」

俺は彼女の名前を呼んで俺の存在に気付かせようとした。

だが竜崎はこちらを向こうとはしない。

「ね、竜崎。」

俺はしゃがんで彼女の顔を覗き込んだ。

暗くてよく見えなかったけど、俺の耳には規則正しい呼吸が聞こえた。

なんだよ、寝てんのか。

せっかく勇気だしてこっちまで来たっていうのに。

俺は脱力してそのまま座った。


彼女は俺を好きなんじゃない。

俺のテニスが好きなんだ。

昨日の彼女の態度でやっとわかった。

俺が視線を感じていたのは、彼女が俺の打つ球の軌道を見ていただからだ。

俺を見ていたんじゃない。

あくまで俺のテニスだ。

早く起きてくれ、竜崎。

それで何もかも取り消してくれ。

昨日の俺の失言も、あんたの心に焼きついてる俺のテニスの全ても。

どうしても、寝ている竜崎を起こすことができなかった。

絶対に俺の思い通りにはならないと思ったからだ。

でもその場を離れることはできなかった。

離れたら、また竜崎の心が変わってしまうと思った。

テニスだけでもいい、せめて俺のテニスだけでもいい。

竜崎の心を繋ぎとめておくのには、それしかないんだと確信してしまった。


「えちぜーん!!」

大声で俺を呼ぶ声がする。

もう休憩時間は終わりか。

俺は竜崎の肩を揺らした。

竜崎は嫌そうな声をだして顔を上げた。

「・・・リョーマくん。」

急に、竜崎は顔を真っ赤にして立ち上がった。

首からかけていたタオルが落ちる。

俺はそれを拾って彼女に渡す。

そのタオルを受け取る竜崎の指が震えていた。

「あの、ごめんなさい。」

俺は何も言えず、ただ下から竜崎を見ていた。

そんな真っ赤な顔しちゃって。

俺も立ち上がった。

こんなことならもっと早く起こせばよかった。

「別に。」


ジンクスは解けて、確信も揺らいだ。

彼女は俺のテニスに憧れ、同時に俺に対しても頬を真っ赤に染める。

なんだ、その震える指の原因は俺が知らなかっただけか。


彼女は俺がしているテニスを好きだ。

そしてテニスをしている俺が好きだ。


Fin

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客観的に読むと、ほんとわかんないなこれ(笑。
ただ部活とラブに揺れる中学生が書きたかっただけなんです。


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