そのために成長したんだ。



君のいない空虚な過去



俺の隣で寝そべるルキアがう、と小さく声を上げた。

「どうした。」

「どうも床が堅くて首が。」

ルキアは起き上がって首の辺りを擦っている。

六番隊の隊舎、芝の青々とした庭を臨む縁側に非番のルキアを連れ込んだ。

最近は忙しくて、ろくに顔も合わせられなかったから俺は限界だった。それはもう色々と。

「俺の膝にでも乗せてろ。」

ルキアは素直に俺の胡坐を掻いた膝の上に頭を乗せてきた。

再び目を閉じて寝る体勢に入っている。

長い睫毛が陽に当たって、目元に長い影を落とす。

その光を遮るように、背を少し前に倒して影を作ってやった。

まじまじとルキアを見つめる。ああ、ほんとうに俺の女でいいのか。

俺を不安に陥れるくらいルキアは綺麗だ。

「暑い。」

陶然としてルキアを見つめていた俺は、ルキアの声で我に返る。

夏の真っ只中である。俺だって暑い。

手元にあった団扇でルキアの顔を扇いでやる。

「ありがとう。」

「おう。」

まるでルキアの召使。けれど感謝されるだけで満ち足りるのは、惚れた弱みだ。

好きすぎて感覚が麻痺しちまってるのかもな。

そんなこと口には出せないが、ルキアはきっと気付いてる。

俺に愛されてるのを肌で、言葉で、空気で感じて、この女は何を考える?


「男の身体は骨張っている。」

ルキアがふと呟いた。

目を瞑っているのに寝るわけでもないんだな。

「枕が硬いってか?」

「いや、平気だ。けど、女とは違う。」

「そりゃあ違うだろう。」

ルキアが目を開けて、俺が扇ぐ団扇の動きを目で追っている。

「女は柔い。松本副隊長に抱きしめられるといつもそう感じる。」

乱菊さんに抱きしめられるルキアを想像する。

想像に難くない。何度かそんな場面に出くわしたことがある。

「・・・お前だって柔らけえと思うぜ。」

団扇で扇ぐのをやめた。ルキアの視線が俺に注がれる。

「私は骨と皮しかないから、松本副隊長のようにはいかぬよ。」

「んなことねーよ。だったら試してみるか?」

ルキアは目を見開いてがばっと起き上がった。

「やめろ、暑苦しい!」

立ち上がって襖を開け、部屋に逃げようとするルキアの腕を掴む。

振り払おうとするのに屈せず、俺は背後から抱きしめた。

なるほど薄っぺらい身体だ。

「恋次、よさぬか!こら!」

自分の身体を密着させて、何度も抱き慣れた女の身体をしっかり感じる。

乱菊さんのように男を誘惑するような身体つきじゃない。

けど小さくて、力を込めれば壊れそうなほど柔くて。庇護心を掻き立てる。

「ルキア。」

「・・・何だ、恋次。」

身を強張らせ、背後の俺の一挙手一投足に気を配る様がいじらしい。

「俺は好きだ。お前の全部。」

ルキアが息を詰める。

「・・・ただもうちょっとお前は太れ。たくさん食え。」

柄にもなくじれったい愛の言葉を囁きそうになった。

それじゃ胡散臭くて説得力に欠けるから、あえて言わないで誤魔化した。

ルキアは怒ったように俺の腕を振り払う。

「莫迦!変態!」

罵倒したくなるほど莫迦で変態な男に惚れたのは誰だよ。

そんなこと言ったら殺されるだろうから絶対に言えないけど。

こういう時、俺はルキアに愛されているんだと肌で、言葉で、空気で感じる。

俺の女でいいんだ。


「あの時・・・」

俺に背を向けたまま、急に真面目な声でルキアが呟く。

「あの時、私は双極から一護に落とされただろう。覚えているか。」

忘れもしねえよ。

双極の天辺から落ちてくるルキアを、必死で受け止めて、死んでも離さない。

自分と、ルキアの心に誓った。

沈黙を是と汲んで、ルキアが話を紡ぐ。

「抱えられて、追っ手から逃げた。」

「ああ・・・」

「あの時の私は、差し迫った局面だったのに、お前の身体の成長に驚いていた。」

ルキアが振り返って俺を見つめる。

瞳には涙がうっすらと溜まって、陽の光に反射してちらちらと光る。

「四十余年、触れることすらできなかった。」

腕を伸ばす。

死んでも離さねえ、何度も何度も誓った文句をもう一度反芻してやる。

「お前の成長は、触れ合えなかった歳月の重みだ。だから、恋次・・・」

余裕なく、性急にルキアを掻き抱く。

熱を持った首筋に何度も唇を寄せて、離さない、離せねえんだ。

「本当は全部埋めてほしい。四十余年分の歳月を、ぜんぶ、」

ルキアの腕が俺の首に回る。

「わかってる・・・」

優しい接吻なんてしてやれない。

獣のように、ルキアの全てを貪りつくすように深く口付ける。

全部埋めてやる。一秒だって余すことなく、全てを満たしてやるから。


ルキアの寝顔を見ると、時空を超えて犬吊での生活に戻ったように錯覚する。

小さな唇が少し開いていて、時折長い睫毛が震える。可憐だ。

四十年という歳月は思うよりも遥かに長い。

俺だけじゃなく、ルキアも随分と大人になった。

悩ましいほどの色気を放って俺を懊悩させる。しかも無意識だからたちが悪い。


桎梏を解かれた。

四十余年、果たされなかった約束も、ずっと描き続けていた願望も。

全部。そう一つ残らずその全てを溢れゆくほどに。


Fin

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久しぶりすぐる・・・
創作意欲はあるんですが、なかなかうまくいかないっす。
あ、拍手ありがとうございます〜!
リクエストみたいなのがあったらバシバシお願いします。


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