期待をすれば、また無くす。


戻ってこない


「ああ、私は幸せだ!」

六番隊の執務室に入ろうとした隊員が、何事かと顔を上げる。

そして少女の姿を確認すると、安堵して執務室に入っていった。

俺とその大声の主は今、執務室の屋根の上に座っている。


「おいお前、少しよこせ。」

俺はルキアの手の内の器を指差す。

「・・・いいぞ、少しなら。」

俺がやった食い物なのに、最初から自分の物だったかのように言った。

それを咎めたくなるが、惚れたほうが負けなのは周知の事実だ。

ルキアは渋々といった顔で俺に器をよこした。

「少しだぞ!」

硝子の器の中には苺と蜂蜜のかかった白玉が入っている。

ルキアに突っつかれたそれらは、見た目は最初より劣るが味は良さそうだ。

「聞いているのか?少しだけだぞ!」

ルキアが俺の耳元で怒鳴る。

「仕方ねえな・・・いいよ、全部食え。」

俺は呆れたように言って、白玉の器と匙をルキアに返した。

「おお!いいのか?!」

興奮して目を輝かせるもんだから、ルキアの顔を見ることができなかった。

「ああ、食え。」

「ありがとう恋次!」

その笑顔で俺に白玉の代金が払えることくらい、こいつは知っている。


白玉を食べ終えたルキアは立ち上がって、空の器を俺によこした。

「もう行くのか?」

「ああ、一護が待っているからな。」


藍染の造反から一週間経った。

尸魂界が落ち着きを取り戻しつつある中、明日は一護が帰着する。

しばらく会えねえからか、だからそんな約束したのか。


ルキアは困ったように笑っている。あたかも一護の保護者であるような面。

一護はこの女のことを保護者とは思ってないだろう。

あんな青い餓鬼の考えなんて、手に取るように分かる。

「あいつがお前のことを呼んだのか。」

「そうだ。一護はまだ子供だからな。」

まだ子供だから、だからなんだ。

子供だから多少のわがままくらい聞いてやる、そんな大人の余裕か。

「何て顔しているんだ。それでも副隊長か!」

ルキアが俺の顔を覗き込んで言う。

「もっと居ろよ。」

俺は目の前にある楝色の浴衣の裾を掴んだ。

あんな餓鬼でも俺は不安だった。


俺が一護を疎んでいるのをルキアは知っている。

その理由は明確で、しかしそれに彼女が応えることはない。

こんな泥塗で不毛な関係をルキアはあえて保ち続ける。

「お前は仕事だろう。」

いつも譲歩するのは俺で、結局自分の想いに背いて悔悟する。

一護が子供であるせいでいつも俺はルキアを離す。

「もうすぐ昼休みが終わるぞ。お前も行け。」

違う。俺は既成事実を盾に逃げている。

それを妥協だとかぬかしながら。


「そうだな・・・戻ってくんのか?」

戻ってくるはずない。

「いや、多分今夜は宴会だからな・・・」

すまなそうに言ってるが説得力はない。

宴会なんて嘘だろ。バレんの承知で嘘つくなよ。

「おう。楽しそうだな。」

でも止められない。

こいつの行く手を阻む決定的な勇気がない。

怖気づいてるんだろうよ。自分でも呆れる。

少しでもルキアの心に触れたら、きっとこいつは一護に靡く。

「じゃあな。」

ルキアは屋根から勢いよく飛び降りて駆けていった。

まただ、また逃した。


いつから俺らはこんな建前だけの関係になったんだ。

食いもんで機嫌とろうとしてる俺に、あいつはもう気付いてる。

ルキアの後姿が軽快に遠ざかる。

たったの数ヶ月一緒に居た餓鬼と何があった。


もう俺らは終わったか。

始まってもいなかったのか。


Fin


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こいつら付き合ってる設定なんですけどね!
恋次の奥手さに自分でも反吐がでます。
なんでわたしの中の恋次は最強にヘタレなんだろう・・・


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