ずっと待っていた。


大人とか子供とか


期末考査、とやらは学校の学力診断の試験のことらしい。

一護は日々の学習の成果を試すための試験だと言う。

尸魂界で言う統学院の筆記試験のようなものなのだろう。

それの3日や2日前になってから焦りだす皆の姿はここでも同じだった。


「石田は焦らないな。」

彼は勉強に関して焦らない。

一目見てわかるだろう、いかにも勉強ができそうな顔をしてる。

「毎日少しずつ勉強してるからね。」

そういう石田は今まさに机に向かって勉強している。

夜の10時、これといった用事はないが石田がいいと言うので転がり込んだ。


こいつは面倒臭くない男だからいい。

こんな夜遅く、突然部屋に乗り込んでも窓を開けて入れてくれるし理由も聞かない。

いつも私の話を黙って聞いている。

「なぜ何も聞かないんだ?」

石田の手が一瞬止まる、また動き出す。

「聞いてるよ。」

「違うよ、私がお前の所に来る理由をだ。」

石田のしゃーぷぺんしるの芯が折れる。

「興味がないからだよ。」

動揺を隠しきれていない、まだまだ子供なんだな。

私がふと口元を緩めるとすかさず石田が睨みつけてくる。

「今僕のことを子供だと思っただろう。」

「思ったよ。」

「朽木さんはたまに失礼な時があるね。」

石田は椅子から立ち上がり、扉を開けて出て行った。

かわいそうに、傷つけたようだった。

私はべっどに寝転がってどうせまた来る石田を待つ。


なぜ現世の子供は大人に憧れるんだろう。

そういえば井上の友達が「大人の男がすき」と言っていた。

年を取るのは辛いことだよ、石田。

優しい子供のままでいればいい。他人の痛みを放っておけないような。


「朽木さん、ホットミルクで良かったかな。」

石田が戻ってきた。

何事も無かったかのように言って、手にはふたつのまぐかっぷが握られてる。

「すまぬな。」

水色のかっぷを受け取って、もう一方を覗き込むとそれは黒い液体だった。

「お前のはなんだ。」

「え?ああ、コーヒーだよ。知らないのかい?」

こーひー、名前も聞いたことがあるし匂いも知っていた。

確か一護が飲んでいたが、眠れなくなると飲ませてくれなかった。

「うまいのか?」

気になって聞くと、彼はかっぷを突き出した。

「飲んでみなよ。」

それを受け取って少し口に含むと、口の中に苦味が広がった。

私はすぐに自分のみるくを飲んだ。苦いのはきらいだ。

「ありがとう、だが私はあまり好きではない。」

「そうかい、それは残念だね。」

石田は勉強をまた始める。

しゃーぷぺんしるを握る細っこい手が素早く動く。

「ごめんね朽木さん。」

かまってあげられなくて、と付け加える。

「上から目線で物を言うな、小僧が。」

わかってるじゃないか、私がここに来る理由も何もかも。

陳腐な苦汁を舐めているだけじゃないんだな。


石田が机上の灯りを消したのは11時ごろだった。

彼が寝る支度をしているのでもう帰ろうと思い、窓を開けた。

「まだ居ればいいじゃないか。」

「もう寝るんだろう。」

すると石田は私に開けられた窓を閉めた。

「だめだ、君はここに居るべきだ。」

僕ならまだ寝ないから、なんて言って。眉が下がっているぞ。

それを指摘すると珍しく怒ったような顔をした。

「子供のような顔だな。」

「しょせん僕は子供なんだろ。」

石田は私の頬を撫でる。それはもう震える指で。

それでも私は成すがままにされてやる。

「君だって同じだろう。寂しいからここに来てるくせに。」

瞳が揺れていない、ちゃんと私の瞳を射抜いている。

そんな顔もできるんだな、なんてぼんやりと考えていた。

「君は気の強そうなしゃべり方だけど、きっと一人じゃだめなんだよ。」

こーひーなんか飲んで、子ども扱いされるのを一番嫌って。

精一杯背伸びしていたように見えた少年がどうだ。

優しい子供なんかで留まれないんだ、彼だけじゃない皆も。

「朽木さんはさんざん寂しい思いをたくさんしてきたんだ、だろう?」

「石田・・・」

背中を引き寄せて強引に抱きしめられる。

「もう君が寂しい思いをするのはごめんなんだ。だからテスト前だって構わない。」

そんな冷静な声で、なのにそんな速すぎる鼓動で。

「朽木さんが好きだ。」


幼くてひ弱でまだ誰かの助けがいるような子供に救われてしまった。

でもずっとそれを期待していたのは他でもない私だった。


この少年に助けてもらいたかった。


Fin


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この二人ってすごい好きなんだけど、いじりにくい!
だって大人だとか子供だとかって面倒じゃないですか。



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