雨粒が染み込むワンピース。


僕は吸い寄せられる。


ワンピース


天気予報を確認してよかった。

日本列島は雲に覆われて、全国的に雨になる。

それが当たったのは部活後だった。

廊下の窓からふと外を見て、僕は思わず立ち止まってしまった。

雨がこれでもか、というくらい激しく降っている。

落ちてくる、という表現の方が的確かもしれない。

ともかく僕はこれ以上憂鬱な気分にならないように、足早に校舎を後にした。


どんなに静かに歩いたってはねた水滴はスラックスを濡らす。

そして傘からはみ出た僕の腕も冷たく濡れた。

なんて不快なんだろう。

この雨のせいで辺りは人っ子一人居らず、まるで僕だけバカみたいだ。

いや、僕だけじゃない。

シャッターの閉まった本屋の軒の下、そこに真っ白なワンピース。

よく似合ってる。


「朽木さん。」

声をかけると少女の細い肩が反応した。

顔がこちらを向く。前髪が濡れて額に張り付いている。

「・・・石田くん、ごきげんよう。」

その胡散臭い挨拶はなんなんだ。

「どうしたんだい?雨宿り?」

「ええ、途中で雨がひどくなったので・・・」

なぜだか正面の通りをやけに気にしながら答えていた。

僕がそちらを振り返っても何も無い。

霊力も感じないから虚とか死神とかの存在じゃない。

「それにしても風邪をひくよ。ハンカチを貸そうか?」

差し出したハンカチを朽木さんは断った。

彼女の跳ねた襟足から水滴が滴り落ちている。

誰だってこんな線の細い少女を放っておけないだろうに。

相変わらず少女の視線は僕を向いていない。

「黒崎を待っているんだね。」

朽木さんがやっと僕を見た。

にっこり笑う。

「ご名答ですわ。」

てっきり隠すのかと思ったが、彼女は顔色一つ変えず言った。

なんだ、やっぱり。

あの黒崎が毎日、血相変えて彼女を追い掛け回してる。

でもこの死神の少女は僕らの十倍、世界を見ているんだ。

どんなに想ったって不毛なのはきっと彼も知っているんだろう。

「黒崎は君のために傘を取りにいったんだろ?」

朽木さんは頷いた。

その口元は余裕の笑みを湛えてる。

黒崎、この人はお前を見たりしない。


「じゃあ僕は失礼するよ。」

またそんな猫かぶりの笑顔を見せるんだね。

それは僕らに向けられる伝言だ。

この少女が大切に思う他人からの忠告だ。

そんなのはとっくに知っていたのに、黒崎も僕も。

「朽木さん、ごめん。」

きっと彼女にならこの意味が分かるはずだ。

好きになったんだ、ごめん。


帰り際、息を切らせて走る黒崎とすれ違った。

傘を持っているのにそれを差さないのは、走るのに邪魔だからだろう。

表情は必死そのもので、全身ずぶ濡れだ。

僕にも気付かずそのまま走っていった。

情けない。

もちろん僕もだ。


あんな少女に僕らは戸惑う。

真っ白なワンピースが、たまたま似合っただけでも。


Fin


-------------------------------------------------
初めてでちょっと苦戦しました。
石田ルキ、と言えるのでしょうか。


ブラウザバックでもどってください。