向こうから電話なんて珍しかった。
てっきり私を考えることなんてないと思ったのに。
悪魔、と呼ばれるにはもったいない人。
優しい底辺の三角形
もうすぐ次の日になろうとしていた。
英語の論文をしあげてそろそろ寝ようかな、と思ってた。
そのときに私の携帯の着信音が鳴った。
うんざりしながらもその電話にでると、ヒル魔くんだった。
どうやら他校の資料を渡しそびれたみたい。
どうせ、あと数時間で会うんだからそのときでもいいじゃないと思った。
でも彼の声がそうはさせなかった。
目が深夜のコンビニの光を一瞬拒んだ。
その外で、ヒル魔くんは待っていた。
「遅えよ。」
頭を小突かれたから反抗しようとした。
できなかったのは彼がすでに歩き出していたからだった。
「帰るの?」
だって、まだその資料をもらってないじゃない。
そういえば彼は何も持っていない。
「ねえ・・・」
「いいからついてこい。」
言われたとおりに彼の後ろ姿を追った。
冷たい外気。
発言権のない私の存在。
そしてヒル魔くんのしゃんとした背中。
いつになく、しゃんとした背中。
「ヒル魔くん・・・」
随分商店街から離れたと思う。
もう学校の近くあたりじゃないかな。
そこで私はようやく声をかけた。
「どうかしたの?」
誰も居ない。
薄暗い電灯が少しだけ怖い。
「ねえ?」
ヒル魔くんの足音がやんだ。
表情はわからなかった。
その途端に全身に圧迫感。
ああ、抱きしめられてる。
無理矢理な体勢、心臓が潰れそうに苦しい。
何で、
それ以前に何で、彼がこんなアクションを起こすのかわからなくて苦しかった。
引きずり込まれる、溺れる、もうやめて。
一分が十倍、百倍。
開放されたときの彼の顔を正面から見てあげれなかった。
それでも手をのばさずには居られなかった。
「ヒル魔くん、」
顔が崩れる、胸が潰れる。
彼の肩を私の涙が濡らした。
でも彼は何も言わなかった。
嗚咽を止めたのが、彼の唇だったからかもしれない。
なんのために泣いたかって言ったら、なんのためでもなかった。
彼のためだって言ったら嘘になる。
彼はそんなおざなりな悲哀を背負わない。
こんな程度じゃない。
それでもおざなりに私を抱きしめた。
「ほんとにあなたって怖い人。」
空の星、微かに白い息、冷たいにおい。
公園のベンチになんともなく二人。
「うるせえ。」
まだ私の震えが止まらないのに気付いて、ヒル魔くんは私の指先を握った。
ほんとは優しい人なのかな。
怖いのは頂点だけで、底辺は優しい線分。
「ん、カシオペア座。」
話題を探して空を見上げたときに、ふとその星座を見つけた。
「あ?」
ヒル魔くんもつられて空を見上げた。
「きれいよね。」
彼は首を振って好きじゃない、と言った。
それでもいいよ、表面はそれでもいいのよ。
でもあなたの底辺はこの空を埋める星座を、全部覚えてられる。
息をさせない抱きしめ方をすることができる。
震える指先に気付くことができる。
そしてその指をさり気なく握ることができる。
底辺は優しい直線の、無限の三角形。
それがあなただとしたら。
Fin
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これは結構気に入ってます。
ヒル魔さんにはまもりを頼っていてほしい!と思って作りました。
自分でもよくわからないけどとにかく好きなほうです、この小説。
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